学部長あいさつ
五高精神を受け継ぐ熊本大学工学部で未来を切り拓く
工学部長 連川 貞弘 熊本大学工学部は明治30年に旧制第五高等学校工学部として創設され、平成29年に創立120周年を迎えました。五高の精神を受け継ぐ「剛毅木訥」の気風の中で育った卒業生は、これまでに4万名弱を数え、国内外の様々な分野で活躍しています。
今、私たちはこれまでに経験したことのない大きな社会変革の流れの中にあり、あらゆる分野で従来の資本集約型社会から人工知能(AI)やデータサイエンスの活用に基づいた知識集約型社会への転換が急速に進みつつある時代を生きています。新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックは、その流れをますます加速し、新しい価値創造をともなうデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応を迫られています。また、脱炭素社会に向けて世界が走り始め、産業構造の変化も起こり始めています。そのような環境の中、熊本大学工学部は、「工学の専門知識と学際的知識を総合化した判断力」「問題解決能力や新規分野を開拓発展させる能力」「国際的な視野に立つ幅広い知識と柔軟な応用能力」を有し、人類の福祉と文化の進展、自然との共生に寄与できる高級技術者の養成を目的とし、国際水準のカリキュラムと最先端の研究を通した教育を行っています。平成30年4月には、社会の要請に応え、工学部を従来の7学科から4学科に再編成し、入学後の1年間で幅広い基礎力を養い、自分の適性を見極めた上で、2年次から進むべき専門教育プログラムを決定することができるLate Specializationを導入しました。また、様々な社会課題を解決し、新たな価値を創造することにより、人間社会を持続可能でよりよいものとするためには、専門知識を深めるとともに、物事を俯瞰的に理解し、価値創造力を養うことに通ずる幅広い教養力が求められます。したがって、従来の学部4年間の修学期間では十分とは言えないことから、大学院博士前期課程を含めた六年一貫的教育体制をとっています。
一方、各学科・教育プログラムにおける専門教育に加え、工学部附属グローバル人材基礎教育センターでは、グローバル化への対応力および日本の発展を牽引してきた“ものづくり”を支える力を涵養するための教育をさまざまなプログラムとして提供しています。例えば、国際的な連携による「ものづくり」プログラムとして、韓国・東亜大学校、台湾・高雄科技大学との国際連携デザインキャンプ(ICDC)を実施しており、企画から作製まで、多国籍の学生の協働による実践的なものづくり経験を積む機会を提供しています。ICDCを経験した学生の中からは、さらに国際的な活動を求めて留学にチャレンジする者もいます。
また、起業家精神をもったチャレンジ力旺盛な人財を育成するため、工学部副教育プログラムとして「アントレプレナーシップ教育プログラム」を提供しています。本プログラムでは、ロジカルシンキングやシステム思考など、アイディアを論理的に組合せて革新的なものに作りこむための基本、アイディアをビジネスに繋ぐための方法論等を学ぶことができます。さらに、学生の自主的な課外活動を支援する「学生自主プロジェクト」も充実しており、例えば、「空き家リノベーション」など地域住民の方々との連携で地域おこしに貢献しているグループもあります。
また、グローバルな視点で教育・研究を力強く推進しながらも、地域にある「知」の拠点として、地元自治体や産業界等との連携はもちろん、地域に根差した活動も積極的に行っております。熊本地震からの復旧・復興に向けて開設された熊本大学「ましきラボ」では、教職員が学生諸君と一緒に益城町の復旧・復興のための活動を続けており、さらに、工学部公認サークルの「熊助組」は、熊本地震発災直後から活発に活動しており、コロナ禍の中、令和2年7月豪雨からの復興への支援活動も継続して続けています。
「夫レ教育ハ建国ノ基礎ニシテ子弟ノ和熟ハ育英ノ大本タリ」
これは本学の前身である第五高等学校の教授であった夏目漱石が創立記念日に教員総代として述べた祝辞の一説です。さらに漱石は、もしわれわれ教師が学生に対し信頼と愛情をもたず、また学生が先生に傾倒しなければ、教育は荒廃の一途をたどるであろうと指摘しています。教育は教員と学生との相互関係により成り立つものです。幸い、熊本大学工学部には、情熱を持ち、最先端の研究に携わっている多くの個性的な教職員がいます。学生の皆さんと私たち教職員が共に学び、共に切磋琢磨することによって本学工学部が掲げた教育の目的が達成されると信じています。日本有数の歴史と伝統ある熊本大学工学部で学び、新しい社会を切り拓く人財として自分自身を成長させてみませんか。