教員特集

工学部ならではの
『実用』を目指す数学を学ぶ

Naoyasu KITA
北 直泰
教授
工学部 機械数理工学科

PROFILE
1993年早稲田大学理工学部物理学科卒業、1995年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、1999年名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士課修了。2000年日本学術振興会特別研究員。2001年九州大学大学院数理学研究院助手、2004年宮崎大学教育文化学部助教授、2015年熊本大学工学部数理工学科教授、2018年より現職の熊本大学工学部機械数理工学科教授。

「数学がものづくりに貢献できること」を学生と共に追及

 微分積分など数学の方程式を用い、光ファイバーの中に伝わる信号の変化などを研究する北直泰教授。一般的な光ファイバー工学においては、コンピュータを用いた数値計算でパルス(電気信号の波)の形状の変化を予測しますが、北教授はこの予測に非線形シュレーディンガー方程式という数式を利用します。これにより、コンピュータが無くとも数km先のパルスの変化を計算し、必要な光ファイバーの長さを導き出すことができます。「事前に信号増幅に十分な光ファイバーの長さが把握できていると、不必要に長い増幅用光ファイバーを準備することもないし、足りなくなることもない。このように『無駄な労力を省く』ために、数学は活躍するんです」と北教授は言います。

 学部4年生が受講する北教授のセミナーでは、「数学がものづくりにどこまで貢献できるのか?」という問いをテーマに、学生の希望に応じてユニークな研究がなされています。ある学生は「できるだけ材料費をかけない」という制約のもと、望遠鏡づくりに取り組みました。レンズに使えるものを大学の廃材置き場から探したり、町はずれにあるラムネ工場に足を運び瓶からビー玉を取り出そうとしたり、北教授と共にさまざまな試行錯誤をしたといいます。結果的にペットボトルをレンズに代用。的確な焦点距離を求める際に、「極限」の値を導き出すロピタルの定理を活用しました。

 また、セミナーでは新型コロナウイルスや鳥インフルエンザなど、私たちの生活を脅かす多様な感染症ウイルスの検出にAIを用いる方法を研究しています。施設の掃除で廃棄されるバケツの水などを顕微鏡で拡大し、その画像をAIに認識させウイルスの有無を判定する方法で、その判定システムにおいて微分の知識が利用されています。「世界的に見て、工学部の中にある数学の専門コースは珍しいんです。“作り・創り・造り”を重視される工学部ならではの『数学の可能性』の探求に、日々学生と一緒に励んでいます」。

  • 2枚の5円玉を利用して作成した顕微鏡画像
    PC画面のピクセルが確認できる
  • 趣味の「サイコロ」づくり
    手先に集中することで思考がクリアになるそう

数学の知識を生かし、
卒業生は多様な分野で活躍

 北教授が学部で教えているのは『微分積分』と『フーリエ解析』の2講座。1年生から受講できる『微分積分』では、前期で「テーラー展開」など高校で学ぶ数学プラスアルファの内容を学び、後期では変数の多い関数の微分積分を学びます。『フーリエ解析』は2年生から受講できる講座です。医療分野での心拍を測定する機器などに用いられており、周期的に動いている心拍の異常を事前に察知するために「フーリエ級数展開」という手法が利用されています。このように、私たちの生活を数学がどのように支えているのか、ということを実例と共に学べるのが北教授の講座の魅力です。「大人になったら数学は必要ないということはよく言われていますが、実は身近なもののほとんどに数学が関わっているんです。その仕組みを知ると、苦手な人もきっと数学が好きになると思います」

  • 研究室内のホワイトボード
    ディスカッション時のアイデアや計算式で常に埋め尽くされている
  • AIでコロナウイルス画像とそうでない画像を識別

セミナーで学生が作成した望遠鏡レンズは
ペットボトルで代用するなどの工夫がなされている
 機械数理工学科を卒業した学生は、ソフトウェアの設計・開発を行うSEをはじめ、教員、金融関係など多様な進路を歩んでいます。「金融関係では、株価の変動パターンを判定する際に数学が生きるんです。それぞれの進路において、大学で学んだ知識を生かして卒業生が頑張っています」と語る北教授。「学生の多くは『今(トレンド)』を追いかける人がほとんどです。それも大事ですが、もっと未来を見てほしいと常々思っています。例えば、今の高校生や大学生が就職して10年後の世界はどのように変化しているのでしょうか。もちろん、誰も未来を見ることはできないので当てが外れることもあるでしょう。でも、大学はそういう失敗がたくさんできる場所です。ぜひ自分なりの予想図を描いて、チャレンジしてみてください」