教員特集
インフラに『心地よさ』と『美しさ』を
私たちの暮らしを「景観デザイン」で支える
- PROFILE
- 1996年東京大学大学院工学系研究科修了、同年株式会社アプル総合計画事務所入社。その後熊本大学工学部助手を経て、2005年博士(工学)取得。2023年より現職の熊本大学工学部土木建築学科・くまもと水循環・減災研究教育センター教授に就任。専門は景観工学・土木デザインで、社会基盤施設のデザインを中心に様々な地域づくりの研究・実践活動を行う。主な著書に『自然災害と土木-デザイン』(農文協、2022)など。主な受賞に、土木学会論文賞、グッドデザイン・ベスト100サステナブル・デザイン賞、土木学会デザイン賞最優秀賞、都市景観大賞など。
学生が町づくりのプロジェクトに主体的に関わる
私たちが生活する町や自然をより「美しく」「心地よく」デザインしていくことを目的とした「景観デザイン」を専門とする星野裕司教授。過去、日本では道路や公共施設、河川などのインフラを整備する際に、居心地のよさなどはあまり重視されてきませんでした。特に「防災」の観点から作られた施設は、その目的のためだけに作られがちで快適性が見落とされてきたという事実があります。そうしたインフラに対して、日常的な居心地のよさをプラスしてよりよい都市デザインを行っていくことが星野教授の取り組みです。
星野教授が手掛けた代表的なプロジェクトに、熊本市中心市街地を流れる白川の改修事業があげられます。白川は「森の都くまもと」を象徴する緑豊かな景観として市民に愛されていますが、過去度々豪雨によって水害に見舞われてきました。そうした状況を背景に、20年以上をかけ川幅の拡大や堤防の設置などの改修が行われ、星野教授はこのプロジェクトにデザイナーとして参加。河川の美しい景観を維持するために、樹木は残したまま親水性豊かな水辺をデザインし、街中でありながら自然を堪能できる河川公園を作り出しました。この取り組みは、全国的に優れたデザインであることが認められ2015年度のグッドデザイン賞を受賞しています。
- 河川公園で毎月開催されている「白川夜市」
- グッドデザイン賞をはじめ様々なを受賞
直近では、2019年に開業した「サクラマチクマモト」前の花畑広場のデザインにも田中智之教授とともに参加。ウォーカブル(歩きやすい・歩きたくなる)をキーワードに、大クスなどの樹木を生かした回遊する楽しさのある広場をデザインしました。
「こうしたプロジェクトは、セミナーに所属する学部4年生なども初期段階から関わっています。学生ならではの柔軟なアイデアが生きることは多々ありますね。宇城市にある三角駅前広場の改修プロジェクトでは、学生同士でチームを作り、ディスカッションを通してさまざまな案を出してもらいました。こうして出たアイデアを基に、デザイン案を形づくっていくんです」と星野教授は語ります。
得意分野を生かしたアプローチができるのが魅力
星野教授は学部生向けに『景観工学』(2年生向け)と『都市計画演習』『公共空間デザイン』(共に3年生向け)の講義を受け持っています。『景観工学』では、景観デザインの基礎を学び、次年度の『都市計画演習』『公共空間デザイン』でより専門的な知識を身に着けていきます。「デザイン」と名が付く専攻ですが、入学前にデッサンなどの特別な技能を身に着ける必要はありません。
「4年次のセミナーは特に、学生はグループで作業することがほとんど。その中で模型作りが得意な人、デザインが得意な人、リーダーシップがある人など、役割ができていきます。なので『これができないとダメ』ということはないですね。ただ、公共の福祉に関わる専攻なので、快適な町を作りたい、困った人を助けたいというモチベーションは皆さんに持ってほしいと思っています」(星野教授)
星野教授はまた、景観デザイン、さらにはインフラ分野ならではのやりがいや面白さについてこのように語ります。
「車や化粧品は無くても何とかなりますが、インフラは生活をするうえで必ず必要となるもの。なので、とても誇りを持てる仕事だと思いますよ。また、デザインだけでなく、インフラ分野は力学や環境学、生物学など多種多様な視点が合わさっているジャンルです。学び始めてから、それぞれの長所に合わせたアプローチを見つけられるのも魅力です。
卒業生は公共福祉の最前線である土木職の公務員に就く人や、建設会社、建設コンサルタントやデザイン事務所に入社する人などさまざま。『町が好き』『自然が好き』な人、外に出て遊ぶのが好きな人はとても興味を持てる分野だと思います。ぜひチャレンジしてみてください」
- 学生が作った模型を囲みながら
地元小学生と意見交換をしている様子 - 熊本地震からの復興を支援する「ましきラボ」で
学生のデザインを提案を住民に発表している様子