教員特集

新・産業革命に光明をもたらす
「圧電デバイス」の可能性

Makiko KOBAYASHI
小林 牧子
准教授
工学部 情報電気工学科
大学院先端科学研究部
PROFILE
1974年三重県生まれ。1997年千葉大学卒業、1999年千葉大学修士課程修了、2014年カナダ・マギル大学博士課程修了(Ph.D. in Electrical and Computer Engineering)。 学位取得後、カナダ国立研究評議会産業材料機構客員研究員(〜2007年)、同研究員(〜2011年)を経て、2012年から熊本大学准教授。専門は圧電材料とその応用。関連して超音波データ解析、品質管理、走査型電子顕微鏡、X線回折、熱分析法などにも精通。プライベートでは結婚後に産休、第1子出産、育休を経て2015年復帰。

高性能な圧電センサによって日本の直面する社会問題を解決

 ドイツが産学官連携で実現を目指す「インダストリー4.0」や日本発の「ソサエティ5.0」など、世界各国がモノづくりの新たな産業革命にしのぎを削る中、コンピューター分野で知覚的役割を果たす「センサ」による情報解析が欠かせないものとなっています。そして今、次世代センサとして脚光を浴びているものこそ、小林准教授が協同で研究開発を進める「フレキシブル圧電デバイス」を用いた「高温超音波センサ」。

 「圧電デバイス」とは振動や圧力などの変化を電気信号へ変換したり、逆に電気信号を機械的振動に変換したりするもので、医用エコーや配管・建物の検査などに幅広く利用されています。「コンピューターの信号処理で情報解析はできますが、センサ自体の性能が向上すれば誤差率が減り、より効率的に情報を取得できます」と小林准教授。「フレキシブル圧電デバイス」の大きな特長は多機能で薄く、1000℃の高温に耐えられること。これを実現させたのが、独自開発したゾルゲルスプレー法です。その作製方法は、圧電セラミックス粉と圧電ゾルゲル溶液を混合したものを攪拌した後、自動スプレー装置で基盤に塗布。150℃、650℃の順に熱処理を加えて冷ました後、同じ工程を繰り返して用途に応じた厚さの圧電膜を作ります。「粉と溶液を混ぜて焼いて膜にするシンプルなやり方で、なぜ高性能になるか。その理論は、物理学を深く学ばなければできない事象で。たとえば粉と溶液の組み合わせによって電気的特性が変化しますが、一番分かりやすいのは耐熱性が上がること。さらに塗布するときや液体が固体になるときの収縮で空気が入り込む結果、硬いセラミクス素材がスポンジのように柔らかい多孔性という機械的特性を得ます。また、焼成後に行うコロナ分極によって通常の圧電帯とは異なる振る舞いをしている可能性もあり、実に奥深い世界です」。

 自由度の高い圧電膜を作れるため、ロボットの皮膚センサをはじめ、化学プラントの過酷な高温環境で配管の異常減肉を検出するセンサに用いるなど、新規分野のセンサ応用への可能性が広がります。熊大では燃えないマグネシウム合金の研究が進められていますが、そうした新素材を作るときにこのセンサを使ってモニタリングすれば、内部から得た直接的な情報によって、なぜ異常が起き、どう改善したら良いかまで把握できるのです。

折り曲げできる圧電デバイス また、身近なものとしてホームヘルスモニタリングへの活用も。実験で圧電センサを埋め込んだ椅子で生体信号の測定を行った結果、これまでにない明瞭な脈拍と同時に呼吸数などを観測。将来、自動運転などの車載センサとして実用化されれば、運転中の異常を察知して発作による事故や突然死を防ぐほか、眠気や飲酒の検知にも役立ちます。また、身近なものとしてホームヘルスモニタリングへの活用も。実験で圧電センサを埋め込んだ椅子で生体信号の測定を行った結果、これまでにない明瞭な脈拍と同時に呼吸数などを観測。将来、自動運転などの車載センサとして実用化されれば、運転中の異常を察知して発作による事故や突然死を防ぐほか、眠気や飲酒の検知にも役立ちます。

大学発のベンチャー設立、チャレンジ精神を育む教え

 こうした研究成果を事業化すべく、2019年夏には共に研究開発を行う准教授2人と大学発のベンチャーを設立。小林准教授は技術サポートを担います。「日本で新たな産業革命が進んでいますが、IT革命ではインドやアメリカに遅れを取った印象があるため、多くの人は実感が湧かないでしょう。ですからこのセンサを足掛かりにして、日本が産業革命でイニシアチブを取れるよう貢献したい。日本の企業を元気にしたいのです」。

  • 高精度ディスペンサーで精密な上部電極を作成
  • 圧電デバイス作製時に使用する自動スプレー装置

 そんな小林准教授が担当する科目は、一年次の「工学基礎実験」、二年次では「実験一」と実験中心。成功や品質保証に関わらず、新しい実験へチャレンジすることを目標としています。また、英語圏で12年間暮らした経験を生かした「工学英語」、3年次セミナーでは「超英語」も担当。大学院では、超音波の非破壊検査を中心とする授業を全て英語でレクチャーしています。

 「学部生たちには国際学会などで発表する機会を設けています。ほかの大学と交流することで刺激を受けてほしいですし、たとえ英語の質疑応答が上手くいかなくても、くやしさをバネにして研究に励んでほしい。私もカナダへ行ってすぐに国際学会で発表することになったとき、英語で必死に練習しました。あのときの経験は忘れることができませんし、おかげで国内外に幅広いネットワークができました」。常にワクワク感を追い求める小林准教授の元で学んだ学生たちはチャレンジ精神旺盛。社会に出ても高い評価を得ています。

 この学科を目指す学生には「広い分野を勉強したい人におすすめ。知的好奇心を失わないで」とアドバイス。「“無知の知”との言葉があるように、知らないことは恥ではない。知ったかぶりをするより、知らないことを自覚した上で頑張ってほしい。大学は自分が社会へどう羽ばたいていくかを模索する場所ですから、探究心を持って共に楽しく過ごしましょう」