教員特集

雷のような電気エネルギー『パルスパワー』で
多種多様な社会問題を解決

Takao NAMIHIRA
浪平 隆男
准教授
工学部 情報電気工学科

PROFILE
1997年熊本大学工学部電気情報工学科卒業、1999年熊本大学大学院工学研究科修了。同年熊本大学工学部電気システム工学科助手、2003年熊本大学より博士(工学)授与。2003年~2004年米国テキサステック大学パルスパワー・パワーエレクトロニクスセンター客員教授、2006年熊本大学大学院自然科学研究科助教授、2007年熊本大学大学院自然科学研究科准教授、同年熊本大学バイオエレクトリクス研究センター准教授、2013年熊本大学パルスパワー科学研究所准教授、2020年より現職の熊本大学産業ナノマテリアル研究所准教授に就任。

世界初の技術として注目される「アニサキスの感電殺虫方法」

 電気工学分野のなかで「パルスパワー」と呼ばれる電気エネルギーを研究する浪平隆男准教授。パルスパワーとは、自然界における雷のような“瞬間的かつ巨大な”電気エネルギーのこと。直流や交流電力由来の電気エネルギーでは不可能な、100万度/秒にもおよぶ急速加熱や、液体・固体の放電プラズマ化などを成しえます。

 浪平准教授の研究で、世界初の技術として最も注目を集めているのがこのパルスパワーを用いたアニサキスの感電殺虫方法です。アニサキスは細長いミミズのような生き物で、サバ、アジなど食卓でお馴染みの魚介類の内臓に寄生しており、刺身と一緒に生きたまま摂取してしまうと激しい腹痛を引き起こす危険性があります。従来は冷凍での殺虫方法や目視による除去が行われてきましたが、これらの方法には品質の劣化や完全除去が難しいなどの課題がありました。それを解決したのが、パルスパワーを使った感電殺虫方法です。最大1億ワット(100MW)という莫大な電力を約1マイクロ秒(1μs)という一瞬の間に流すことにより、刺身の質を保ちつつ確実に殺虫をすることが可能となったのです。現在、この方法で処理をしたアジは試験的に出荷されており、スーパーなどの店舗に設置するのを見据えた小型の殺虫装置の開発も進められています。

  • アニサキス殺虫装置設置完了の様子
  • パルス処理と加熱処理のアニサキスの状態の違い
    (加熱処理は外皮まで白濁している)

高度骨材再生処理によって粒度別に分離されたコンクリート
再生率は98%を達成している
 もう一つの研究例としては、パルスパワーによるコンクリートの高度骨材再生処理方法があげられます。不要となった廃コンクリートに放電することで、コンクリートをセメントと石・砂に分離。資源としてリサイクルをすることができます。従来の分解方法では50%ほどの再生率が限界でしたが、パルスパワーによる分解方法では98%の再生率を達成。激増する廃コンクリートの再生処理のみならず、東日本大震災による原発事故で汚染されたコンクリートの処理方法としても期待されています。

共同研究を通して企業の考えや視点を学ぶ

コンクリートの高度骨材再生処理に
使用する高電圧パルス電源装置
 こうした浪平准教授の研究には、学部4年生や大学院生も基礎研究から社会実装まで関わっています。「パルスパワーを活用した排気ガスや排水処理方法の開発などにも学生と一緒に取り組んでいます。企業との共同開発案件も多い研究室です。大学にいながら、企業側の視点を学べるのが魅力ですね。その経験を生かして、卒業生は食品や自動車、家電メーカーなど種々の業界で活躍しています」と浪平准教授は語ります。

 また浪平准教授は学部生向けに『物理・化学Ⅰ』という講義も受け持っています。こちらは学部1年生が受講する講義で、高校と大学の物理・化学をつなぐ基礎的な内容を学べるものです。「授業では『この数式がこの家電製品のこの部分に使われている』というようなことが具体的にイメージできるように心がけています」。

 浪平准教授は電気工学、特にパルスパワーを研究することの意義や、大学ならではの勉強の面白さをこのように語ります。

「この世界には運動、熱、光など多様なエネルギーがありますが、現代において電気エネルギーがその中心である理由は、電気を『人間が制御できているから』だと思うんです。パルスパワーはその究極のもの。難しさはありますが、だからこそやりがいがあります。これまで利用されてこなかったエネルギーでも的確に制御することができれば、世の中をもっと便利に豊かにすることができるはずです。

 世の中の事象・現象のほとんどは解明されていて知り尽くされていると思われるかもしれませんが、実はまだまだ分かっていないことはたくさんあります。そうした未開の部分に足を踏み入れ、自ら解き明かしていくことができるのが大学の面白さです。毎日少しずつでいいので、『こんなこと知らなかった』という自分ならではの発見を積み重ねていくと、成長とともに新しい景色が開けるはずですよ」