教員特集
金・銀のナノ粒子と光照射を組み合わせた
ドラッグデリバリーで医療に光明をもたらす
生体関連材料分野
工学部材料・応用化学科
先進マグネシウム国際研究センター(併任)
学長特別補佐(Kumamoto COC+担当)
- PROFILE
- 1966年鹿児島生まれ。1994年九州大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了、博士(理学)取得。長崎大学工学部応用化学科 助手、文部科学省在外研究員(米国ピッツバーグ大学薬学部)、長崎大学大学院生産科学研究科 助手、九州大学大学院工学研究院応用化学部門 助教授、九州大学大学院工学研究院応用化学部門 准教授、熊本大学大学院自然科学研究科 産業創造工学専攻 物質生命化学講座 教授、2016年12月から熊本大学大学院先端科学研究部 生体関連材料分野 教授、現在に至る
薬の運搬だけでなく
“銀”そのものが薬となる
化学、物理学、医学、生物学、工学といった様々な学問が融合したバイオテクノロジー。新留 琢郎教授の研究室では、ナノ材料の特徴的な性質を生かして新しい治療技術に発展させていく研究を進めています。「様々なナノ材料の中でも、とくに私たちが注目しているのが“金”と“銀”のナノ粒子です。これらを医療分野に応用し、体内へ効果的に薬を運ぶ『ドラッグデリバリー』の研究を行っています。たとえば、金や銀のナノ粒子に近赤外光を照射することで、病気になった部位だけを加熱できるんです。そして、そのとき発生した熱で金や銀でコーティングしていた薬を効果的に放出できる。そうした仕組みを作ろうと、研究に取り組んでいます」
研究に用いるナノ粒子を、自分たちの手で作り出している新留教授の研究室。とくに銀ナノ粒子は抗菌活性を持つことが知られていて、薬の運び屋としての役割だけでなく、ナノ粒子そのものが“薬”にもなると言うから驚きです。「銀ナノ粒子の表面に金ナノ粒子をコーティングします。これを感染部分に運び、そこに近赤外光をあてると、ナノ粒子が変形して、内部にある銀が外へ出てきて、抗菌作用を示します。金コートは銀の毒性を抑える働きがありますから、光を当てたところだけで抗菌作用が現れ、副作用を抑えることができるんです」。金属のナノ材料を使って薬を運び、これまでは難しかった感染症などの病気を治そうと医学部と共同で研究開発を進めている新留教授。2017年には、研究成果をまとめた論文がイギリスで発表されました。
- 光でコントロールする銀ナノ粒子からの銀イオンの放出
- 銀ナノプレートの電子顕微鏡写真
化学をもとに新しい治療へ関与
医療との橋渡し役に
熊本大学といえばKUMADAIマグネシウムの研究で世界的に有名ですが、新留教授はマグネシウムを応用した『冠動脈ステント』の実用化にも取り組んでいます。たとえば狭心症は、心臓に血液を運ぶ冠動脈へ血液が行き届かなくなり、動脈硬化が進行して起こる病気。血管が狭くなると、心筋梗塞を引き起こします。そこで一般的なのが『ステント治療』で、血管にバルーンを挿入して拡げ、ステントと呼ばれる金属の網だけを残して血流を確保します。「ステントに使われる金属はステンレスやコバルトクロムなどが多く、体内にずっと残ります。要は異物ですから、血液凝固剤などを一生飲み続けないといけません。さらに血管が再び狭くなるという問題も残っています。
私たちが開発しているマグネシウム合金製のステントだと時間が経てば体内で分解されてなくなり、薬を一生飲み続ける必要もありませんし、もし再び血管が狭くなっても、もう一度ステントを入れることができます。現在は熊本のベンチャー企業や他大学と共同研究も進めていて、私たちは表面の薬物コーティングを担っています」。ドイツをはじめとする世界の企業が開発競争をしており、新留教授のもとで研究に携わる学生たちもその最前線に立っています。「化学をもとに新しい治療に関わる研究を行うことができることは工学部の醍醐味といえます。ただ、実用化には安全性試験や臨床試験に数十億、数百億もの研究費がかかりますからベンチャーや大手企業が関わらないと到底出来ません。そこを橋渡しするのが私たちの役割です」学科を目指す学生には「いろんなことに興味を持って」とアドバイス。「あらゆることがサイエンスに繋がります。歴史にしても、今起こっている事象にストーリーがあるのと同様、テクノロジーも経緯があって発展してきたわけですから。何ごとも本質にたどり着くにはいろんな引き出しを持つこと。熊大には、ここでしかできない研究がたくさんあります。学生たちには、縁あって身を置いた場所で頑張ってもらいたいです」