教員特集

次世代の半導体材料・デバイスを研究
「ムーアの法則」の限界を超える半導体デバイスの実現へ

Keisuke YAMAMOTO
山本 圭介
教授
工学部 半導体デバイス工学課程

PROFILE
2005年九州大学工学部卒業。2012年に同大学院 博士後期課程修了(博士(工学))。2013年九州大学助教、2022年九州大学准教授を経て、2024年7月より現職。クロスアポイントメント制度で九州大学も兼務。2026年に応用物理学会優秀論文賞を受賞。

研究室や講義で学ぶ半導体製造の現場

 スマートフォンや家電製品など身近な電子機器になくてはならない「半導体」。これまでこの半導体の性能向上を支えてきたのは、半導体チップの中の素子をより小さくしていく「微細化」と呼ばれる技術です。このことは一般的に「ムーアの法則」として知られています。しかし、素子のサイズはすでに原子数十個ほどのスケールに近づいており、現在では、微細化による性能向上には長い研究開発期間が必要となり、また製造コストの増大が避けられなくなっています。こうした中、微細化とは異なる性能向上技術の探求も進んでいます。熊本大学で半導体デバイスの研究を行う山本圭介教授もその一人。主流であるシリコンに代わる新しい半導体材料に着目し、将来の電子デバイスにつながる研究に取り組んでいます。

 山本教授が進めるのは「ゲルマニウム」を半導体材料とする研究です。ゲルマニウムはトランジスタ(電気の流れを制御する半導体素子)が発明された当初使われていた材料ですが、材料コストやデバイスの安定性などの理由から次第にシリコンが主流となりました。しかし、ゲルマニウムには、電気が流れやすいという性質や、比較的低い温度で材料を作ることができるといった、シリコンにはない優れた特徴もあります。

 山本教授は、この「低温で作れる」という利点に着目。プラスチックなどの柔らかい材料の上に直接半導体を作り、電子デバイスとして機能させる研究を他大学と共同で進めています。これは、曲げることのできる「フレキシブルコンピューター」の実現につながる可能性を持つ技術です。将来は、生体センサーやカバン・衣類に組み込まれる電子機器など、これまで難しかった用途への応用も期待されています。

「現在でも画面を曲げられるスマートフォンなどはありますが、実際に計算処理を行うCPUや記憶を行うメモリなどの半導体は、従来と同じ硬いシリコンのチップの中に収められています。私たちが目指しているのは、その計算や記憶を担う部分までも、プラスチックなどの柔らかい基板の上に作ってしまうことです。それが実現すれば、半導体を搭載できる場所は大きく広がります」(山本教授)

山本教授の行っている研究の一つは、プラスチックの上に形成された半導体結晶を用いて低温でトランジスタを作る工程です。通常、トランジスタを製造する際には最高1000℃程度の高温の熱処理が必要となります。しかし、その温度ではプラスチックが耐えられないため、100℃程度の低温でトランジスタを作る技術が必要になります。山本教授は、半導体の上に形成する絶縁膜や金属膜の材料を見直したり、製造条件を細かく調整したりしながら、低温で作製可能なトランジスタの実現を目指して試行錯誤を重ねています。また、この技術は、半導体と磁性材料の融合といった未開拓の領域への扉をひらく可能性も秘めています。

得意分野を生かしたアプローチができるのが魅力

 山本教授の研究室に所属する学部4年生や大学院生も、半導体デバイスの製作に取り組みます。学生たちはクリーンルームに入り、半導体基板を装置に投入して処理を行い、取り出して次の工程へ進めるという作業を何度も繰り返しながら、トランジスタを完成させていきます。小規模ながら、行っている作業は半導体工場での製造プロセスとほぼ同じです。

 一方で、研究室ならではの学びもあります。工場では多くの工程が自動化されているため、装置の内部でどのような処理が行われているのかを詳しく知る機会は限られています。しかし研究室では、装置がどのような仕組みで動いているのかを確認しながら、一つ一つの工程を理解していきます。場合によっては装置を自分たちで分解してメンテナンスを行うこともあり、半導体製造の仕組みをより深く学ぶことができるといいます。

 半導体デバイス工学課程は、電気・電子工学や、材料・化学、機械工学など複数の分野にまたがる半導体の知識を横断的に学ぶことができるプログラムです。県内の半導体関連企業の工場見学や、企業の方を講師として招き業界動向などを学べる講義を実施しているほか、2026年度からは、新たに学部2年生を対象にトランジスタを実際に作る実習もスタートします。

「学生の進路は、半導体メーカーをはじめ、半導体製造装置を手がけるメーカーや、半導体の設計を専門とする企業、シリコン基板を製造する企業などさまざま。半導体は、コンピューターはもちろん、自動車、AI、データセンター、医療機器など、私たちの生活のいろいろな場面で欠かせない存在。この先の未来、半導体が世界からなくなることは、まず考えられません。そういう意味で、この分野には活躍できる場所が無限に広がっていると思います。興味のある人は、ぜひ本学の半導体デバイス工学課程で学び、チャレンジしてもらえるとうれしいです」