機械数理工学科中妻 啓 助教

 私は計測工学を専門としており、これまでセンサーやセンサーシステムの研究を行ってきました。また、現在私は株式会社CAST(以下、「CAST」)という熊本大学発(認定)ベンチャー企業で代表取締役社長という立場にもいます。CASTは工学部情報電気工学科の小林牧子教授が発明し研究を続けてきた、耐熱性とフレキシブル性を持ったセンサーを実現する「ゾルゲル複合体圧電デバイス」技術の事業化を目指して設立された会社です。私は2015年から小林教授との共同研究でこの技術を活用したロボット皮膚センサーの研究を行い、それをきっかけにこの技術に産業的なニーズが強くあることを痛感しました。ぜひこの素晴らしい技術を広く使われるものにするべきだと考えたことが、小林教授と一緒にCASTを創業したきっかけです。
 さて、今回はCASTと熊本大学の間で2021年9月に結ばれたクロスアポイントメントに関する協定についてご紹介します。
 クロスアポイントメント制度とは、大学と企業に同時に在籍し職務を行う制度です。通常は、企業の研究者が大学に研究室や講座を持って週2日は大学の業務、残りの3日は企業の業務といった形で研究者に適用される制度でしたが、熊本大学では大学発ベンチャーを人材面から支援するために、大学の事務職員を創業間もない大学発ベンチャー企業にクロスアポイントメント制度によって派遣して支援することを可能にしました。その第一号として、CASTへ熊本大学URA(リサーチ・アドミニストレーター)が派遣され執行役員として業務しています。この職員は長年、私たちの研究プロジェクトを支援していただいており、技術の内容や事業内容、知財の状況なども熟知しているため、現在は知財戦略立案や知財関連業務、営業戦略立案・実施に携わっています。
 事業を進めるための重要な要素である「人」を集めるのは非常に難しいため、創業後の大学発ベンチャーにとっては税務・労務・法務など会社として最低限必要な業務の担い手を確保することができます。この仕組みは他にほとんど例がない熊本大学独自の支援制度で、大学にとっても研究成果の社会実装をベンチャー企業の立場から経験した職員がいるということが大切な財産になっていくのではないでしょうか。
 この制度がこれから熊本大学発ベンチャーに広く活用され、研究成果の創出とその社会実装の好循環が熊本から世界へ発信されるためにも、CASTとしても事業を成功させるために精一杯努力して参ります。

 

○クロスアポイントメント制度について(経済産業省 HP より)

 研究者等が大学、公的研究機関、企業の中で、二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォートの管理の下で、それぞれの期間における役割に応じて、研究・開発及び教育に従事ずることを可能にする制度。

○リサーチ・アドミニストレーター(URA)について(文部科学省HPより)

 研究活動を効果的・効率的に進めていくために、プロジェクトの企画・運営、知的財産の管理・運用等の研究支援業務を行う人材。