自然科学教育部機械数理工学専攻
博士前期課程
陶山 聡 さん

 私たちは、盲学校(視覚特別支援学校)へオリジナル教材を開発し、寄贈する活動を行っている工学部公認サークルです。 盲学校の先生方は、主に視覚に障害がある生徒一人一人に寄り添った教育を行っていますが、「こんな教材があれば……」と感じても市販品で手に入らない場面が多々あります。それは、盲教育現場を市場規模として捉えると極めて小さく、メーカーが参入しにくい現状があるからです。そこで私たちは先生方の要望にお応えする教材を作り、無償で寄贈して、「日常の困りごと」の解決をお手伝いしています。

 この活動を2014年から継続的に行っていましたが、コロナ禍では私たちも例外なく学生活動の制限を受けました。部室(作業スペース)利用や活動そのものが禁止されたり、毎年参加していた研究大会が中止になりフィードバックを得る機会が激減したりしました。しかし例えコロナ禍でも、待っている先生と生徒さんのために開発の中断はできません。要望をできるだけ早く形にしてお届けするために、様々な工夫を凝らしながら行ったプロジェクトをいくつか紹介します。

 一つ目は、「ふれあいどうぶつしょうぎ」です。コロナ禍だからこそ人と人とのふれあいを大切にしてほしいと私が提案した将棋型のボードゲームで、棋士の北尾まどかさんのご協力を得て実現しました。このゲームがあれば視覚障害の有無にかかわらず、子どもから高齢者まで幅広く楽しい交流活動ができます。開発者の私自身ゲームが大好きで、同じくゲーム好きの全盲少年と対局したところ大変白熱し、結果は私の辛勝でした。子どもたちにボードゲームの楽しさを広めることができて大変嬉しいです。このゲームは全国盲学校に200台以上の寄贈を行っており、現在でも追加寄贈の依頼を数十件受けています。

  • 目が見えなくても手触りだけで遊べます目が見えなくても手触りだけで遊べます
  • 「ふれあいどうぶつしょうぎ」のコマを製作しています「ふれあいどうぶつしょうぎ」のコマを製作しています

 寄贈の準備には多くの人員と時間、道具と場所が必要です。コロナ禍ではその多くが制限され不自由となる中で、部品を小分けに分担して持ち帰って作るなど、工夫しながらの活動になりました。教科書に角度をつけて固定する学習支援機器「書見台」のプロジェクトは、部品と作業工程が多く、まさにその制限によって完遂が危ぶまれましたが、新入部員の力も加わって無事に達成できました。

書見台の完成品書見台の完成品

 もう一つ、現在開発中の「校舎模型プロジェクト」を紹介します。全盲の児童は盲学校入学日から、校舎での現在地が分からず不安に包まれ、トイレに行くのもままならないそうです。そこで、児童が教室の配置を自分の力で調べられるように、手で触れた部分をセンサで音声通知する校舎模型を製作しました。この模型は熊本盲学校で全盲の教員に試用してもらい、大きさや音声反応などの使いやすさを評価していただけました。

建築模型の組み立て作業中建築模型の組み立て作業中

 このようにコロナ禍でも様々な教材を開発し、全国に計300台以上をお届けしました。前述の教材以外には、理科の授業で使う音声型気温・湿度・高度計「大気くん」や、ピッチングゲームで空間概念を学ぶ「おしゃべりボールぽん!」を寄贈し、現在は新作のボードゲーム型教材、音声世界地図などを開発中です。さらに、視覚障害の方を取り巻く環境の周知活動も行っており、工学部イベントへの出展では目の見える子どもたちに点字の読み書きを体験してもらいました。

  • 200台以上の「ふれあいどうぶつしょうぎ」を順次出荷200台以上の「ふれあいどうぶつしょうぎ」を順次出荷
  • 子どもたちに点字の読み書きを教えています「子どもたちに点字の読み書きを教えています

 私たちはこれからも、大学の技術で社会貢献を行うべく盲学校の支援活動を続けていきますので、皆様のご協力とご支援をよろしくお願いします。