新しい時代へ – 高まる『工学』への期待

工学部長連川 貞弘 教授 

 2016年4月の熊本地震により被災した熊本大学工学部のシンボルである「工学部研究資料館(重要文化財)」の勇姿がキャンパスに戻ってきました。約6年間にわたり修復工事のために資料館全体が鉄骨で支えられシートで覆われていましたが、修復工事がほぼ完了し明治時代の創建当時の姿がよみがえりました。地震直後の痛ましい姿を思うと、非常に感慨深いものがあります。あらためて、工学部の卒業生、現役学生や教職員の心の拠り所としての存在感の大きさを実感します。今後、一般の方にも公開される予定です。
 さて、昨年度のご挨拶でも少し触れましたが、ポストコロナに向けての大きな社会変革が今まさに急速に進みつつあります。カーボンニュートラル、グリーンエネルギー、デジタルトランスフォーメーション(DX)、激甚化する自然災害に負けないレジリエント社会の構築、健康長寿社会の構築など、今後100年の新しい社会の基盤作りが今まさに模索されいると言っても過言ではないでしょう。明治期の人々が現在の我が国の社会の礎を築いたことに匹敵する歴史的瞬間に立ち会っているといえると思います。そのような中で、特に半導体は5G、ビッグデータ、AI、 IoT、 自動運転、ロボティックス、DX等のデジタル社会を支える基盤技術であり、国家戦略的なキーテクノロジーとなっています。大きなニュースとなっていますので、ご存じの方も多いかと思いますが、世界的な半導体企業であるTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県菊陽町に工場を新設することが発表されました。今後、ますます半導体分野の教育を受けた人材への需要が高まってくると予測されます。このような状況にいち早く対応するために、大学院先端科学研究部(工学系)では、令和4年4月に先端科学研究部附属「半導体研究教育センター」を設置し、関連の研究者を集結して基礎研究からスステム応用までを網羅する総合的な半導体研究を推進する予定です。さらに、半導体は広範囲の工学分野の総合技術であることから、工学部の学科を横断する半導体人材育成カリキュラムを整備・強化し、社会の要請に応えることができる高度技術者・研究者の育成に取り組んでいきます。
 このように、半導体分野のみならずポストコロナの日本の未来を切り拓く分野として、「工学」への期待は非常に大きく、工学部で学ぶ皆さん、これから工学を学ぼうと考えている皆さんには、若い力と柔軟な発想によりパラダイムシフトを起こしてほしいと思います。