中島 雄太 准教授中島 雄太 准教授

がんは、私たちの日常に最も深く関わる病のひとつです。日本人は生涯で2人に1人が罹患し、3人に1人が命を落とすと言われています。医療技術は急速に進歩していますが、初期の小さながんや治療後に体内にわずかに残るがん細胞を確実に見つけることは、いまだ容易ではありません。画像診断では捉えきれない微小ながんをどう検出するか?という点が現在の医療が直面する大きな課題です。私は、このがん診断という社会的課題に工学の力で応えたいと考え、この挑戦を始めました。

私たちの研究グループが目指しているのは、血液中にごくわずかに存在する「循環腫瘍細胞(がん細胞)」を高精度で捕捉・検出するマイクロデバイス(小さな機械)の開発です。血液中には膨大な数の赤血球や白血球が存在し、その中にほんの数個しかないがん細胞を見つけ出すのは、まさに砂浜で一本の針を探すような挑戦です。しかし、工学の知見を応用し柔軟な発想と組合わせ、細胞の大きさや性質の違いに着目することで、がん細胞を選択的に捉える手法が見えてきました。

このプロジェクトの核となるのは、工学的に設計されたマイクロフィルタデバイスです。半導体加工技術、精密電鋳、3Dプリンティングなど複数の技術を組み合わせ、細胞の物理的特性と分子レベルの結合特性の双方を利用することで、がん細胞を特異的に識別・捕捉する仕組みを実現しました。すでに実施した基礎的な研究評価では高い精度が示されており、実用化への可能性が着実に高まっています。

現在は熊本大学消化器外科学教室と連携し、実際の患者さんの血液を用いた臨床評価を進めています。実際の医療現場で安心して使っていただく技術とするためには、継続的な検証とデータの蓄積が不可欠です。このような研究を推進するためには、多くの人的リソースと研究費が必要であり、私たちはクラウドファンディングという形で社会に呼びかけました。その結果、多くの方々にご賛同頂き、300名を超える方々から総額1,100万円以上のご支援をいただきました。私たち研究グループにとって非常に心強く、一同で心より感謝しています。

私はこのプロジェクトを通して、単に新しい装置を開発するだけでなく、地域社会と共に未来の医療を発信したいと考えています。地方大学発の挑戦であっても、社会の共感と連携があれば、世界に通用する技術を生み出すことができる。その可能性を、このプロジェクトで示したいと思っています。

「血液1ccでがんが見つかる未来」は決して遠い夢ではありません。この技術が医療現場に届けば、多くの患者さんがより早く、より安心して治療を受けられるようになります。そして、がんで苦しむ家族を持つ人に笑顔をもたらすことができるようになります。一日でも早くこのような日が来るよう、全力でプロジェクトを推進していきます。

開発したマイクロフィルタデバイスを用いた検査の流れと概要

 開発したマイクロフィルタデバイスを用いた検査の流れと概要